目醒めの森 第5話





その日、リノアはいつもどおり森のキツネの首領の家にいた。
スコール達が帰ってきたら、すぐにあたたかいものを出してあげられるように、首領に教えてもらいながらスープを煮込んでいた。
スープが出来上がったところで、首領の娘に声をかけられた。

「リノア。ガルバディア兵も街からいなくなったみたいだし、買い出しに行こう!」

あまり外に出ないようにスコールに言われていたリノアだが、1人でなければ買い出しくらいは許された。
明るく返事をして、リノアは外に出た。

買い物のメモを片手に歩く首領の娘ラーナと一緒に、リノアはティンバーの街を歩いた。

(よかった......)
外を歩けば、気分も少しは明るくなる。

今、スコール達は市街地にはいない。
昨日突如現れた彼女の父親をオーベール湖北の森まで送るためだ。
今思い出してみても腹が立つ。なぜ、スコール達があの男を送っていかなければならないのか。スコールとあの男のやりとりを聞いてはいたものの、腹が立ってしょうがない。

それに、父は自分が魔女であると知っていた。
その話を切り出したときの、父の表情が頭から離れない。

首領の娘ラーナはリノアより1つ年上で、しっかり者で、よく家の手伝いをしている。リノアにとっては友人でもあり、頼りになる姉のような存在である。
買い物を一通り終えたところで、ラーナは足を止めた。

「ね、ちょっと寄り道していかない?」
突然の提案にリノアは困った。スコールに外出は控えるよういつも言われているからだ。

「えっ?うーん..........」
そんなリノアの反応を見て、彼女は笑った。
「大丈夫!今から行きたいところは、女の子ばかりだから、スコールも許してくれるって!」

(そういうわけじゃないんだけど......)

「彼女は何か勘違いしている」とリノアは思った。
スコールがリノアに外出を控えるように言う本当の理由など言えるはずもないが。

「ティンバーのね、レジスタンスの女の子の集まり、サークルみたいなのが最近できたの」

そんなものがあることをリノアは初めて知った。

「私たちってさ、いつもむさ苦しいところにいるじゃゃない?同じくらいの年のレジスタンスやってる女の子の知り合いもほとんどいないし........」

「でも、そこに行くと会えるんだよ。リーダーも.......ってその人は男の人だけど、カッコいいんだあ。ま、リノアにはスコールがいるけどさ。リノアにも是非来てほしいって言ってるの。........私の顔立てるつもりでさ、ねっ?お願い!」

どうやら、首領の娘はそのサークルのリーダーに恋をしているのかはわからないが、少なくとも好意をもっていることがリノアにはわかった。
そんな彼女の気持ちは、リノアにもよくわかる。

「わかった。あまり長居はできないけど、ちょっとだけね」

リノアがそう言うと、首領の娘の表情が、ぱあっと明るくなった。

  *    *    *


首領の娘ラーナに連れられて、リノアは市街地の裏通りにやってきた。普段なら、通らないような道だ。
その一角に、パブのような建物がある。

「あそこだよ」

ラーナは、はやる気持ちが抑えられないのか、リノアの手を引いていった。


古びたドアを開け、リノアも中に入ると驚いた。
そこにいたのは、みんな10代後半の少女たちだ。
十数人はいると思われる。
それぞれテーブルに掛けて飲み物を飲みながら談話したり、雑誌を一緒にめくったりしていた。
この建物の外見とのギャップに驚きを隠せない。

どの少女たちも、生き生きとしていた。
戦争なんてなければ、こういう光景はごく当たり前になっていたはずだ。
一部の少女達は布で何かを作っていた。
リノアはその様子を不思議そうに眺める。

そんなリノアの視線に気づいたのか、作業をしている少女の1人が顔を上げた。
「花のコサージュを作ってるの。ティンバーの森の中にだけ咲く珍しい花を模してるのよ。その花はね、ティンバーの森にだけ咲く不思議な花なんだよ。魔力で花が開いて、内なる力が目醒めるとか、なんとか。うちのじいちゃんが言ってた。その花のコサージュをたくさん作って、レジスタンスの女の子みんなでつけようって話になっているの」

「リーダーがね、今どきのレジスタンスは、汗臭いことじゃなくて、もっとキャッチーなことしないとダメだって、アドバイスしてくれたんだよ。電波障害もなくなったし、これからはメディアの時代でしょ?私たちがこれを一斉につけたら、ティンバーTVが取り上げてくれるかもしれない。そうしたら、私たちティンバーのことを世界中が見てくれるかもしれない」

リノアは彼女の言うことに、少し違和感を感じた。
(うーん......この子たちが間違ってるとは思わないけれど)
リノア自身のレジスタンス活動はおそらくこの少女たちからしたら、「汗臭い」に入るのだろう。SeeDを雇うまで、森のフクロウのメンバーとアルバイトに明け暮れ、大統領拉致作戦などという大胆な行動に出たりもした。リノア自身も武器を手に取り戦っていたのだ。
同じティンバー独立を願うレジスタンスなのに、どこか隔たりを感じてしまった。

一緒にやってきた森のキツネの首領の娘ラーナは、カウンター席に腰掛ける男に手を振った。その男は数人の少女に囲まれていた。男はリノアの存在に気づいたようで、にこりと微笑んだ。リノアは表情を変えず、軽く頭を下げた。
リーダーと呼ばれる男は、顔は整っている。おまけに少女達の扱いも上手いようだ。
軽快なトークで両脇の少女を笑わせていた。
ただ、リノアを見たときの目がとても冷ややかで、まるでこちらを値踏みするような目だったので、リノアは気に入らなかった。

(スコールの方がカッコいいもん!)

リノアはすぐに目を逸らした。

リノアはしばらくの間、レジスタンスの少女達とたわいもない話をしていた。ガーデンの生徒でもない、普通の女の子達と話をするのは、とても楽しかった。

(でも、そろそろ戻らないと......)
リノアは一緒にここに来たラーナの姿を探した。

(たしか、リーダーのところに行ったはずなんだけど......)
辺りを見回した。

(あれ?リーダーの男......いなくなってる!)
ラーナはその男がいたカウンターで2人の少女と話をしていた。

リノアは彼女のとこへ向かい、帰宅を促そうとした、そのときーーーー


「動くな.......声をあげるんじゃない.........」

ナイフを向けた男が現れた。バンダナで顔を覆っていた。一人だけではない。少女たちを囲むように、その建物内の至るところから7、8人の男が現れた。

はめられた、とリノアは瞬時に理解した。

「裏にあるトラックに一人ずつ乗るんだ。いいか?騒ぐんじゃねえぞ。バカな真似もするなよ?」

  *   *   *

リノアとラーナ含む16人の少女はトラックに乗せられ移動した。全員、両手首を後ろで縛られ、口はテープで塞がれた。

トラックの荷台で、他の少女と同じくリノアは揺れていた。

(どこを走っているんだろう?)

揺れの感じからして舗装された道を走っていることがわかった。
しばらくして、ゲートが開く音、シャッターが開く音がして、トラックが減速、加速を繰り返した。そして、まもなく完全に停止した。

(目的地に着いたみたいね)

トラックに乗せられていた時間から、ティンバー郊外だろうか?モンスターが出るエリアまでは出てないと思う。
重いゲートの開く音やシャッターの音から、ここは倉庫や工場のようなところだろうか?

何を言っているのかわからないが、外では男たちの声がする。


リノアは早くも脱出を考えていた。

でも、ここで下手に動くと一緒に捕らえられた少女達にも危険が及ぶかもしれない。

チャンスを伺うのだ。

スコール達と一緒に旅をして、共に戦ってきたことが、彼女をタフにし、同時に思慮深くさせた。

でもーーーーー

(でも........やっぱ怖いよ、スコール)

リノアは意識を胸元の指輪に向ける。

獅子の姿が施された指輪と母の形見の指輪。
その二つを細いチェーンに通している。
本当は手に触れたいけれど、今は両手が縛られていてできなかったが。

そのとき、急にトラックの荷台のドアが開けられた。
急に強い光を感じ、その眩しさで、目を細める。

男の一人がナイフを片手に荷台によじ登った。

「おい。この中に、リノアという娘はいるか?」

自分の名を聞いて、リノアの心臓は跳ね上がった。

(どうしよう..........)


「お前か?!」
男はナイフの先を近くにいた少女に向けた。その少女は恐怖で顔を歪ませながら首を横に振った。

「じゃあ、お前か?!」
同じように他の少女にもナイフを向けていた。

しかし、男は何人かの少女の視線の先に気づいた。

「お前か.......お嬢ちゃんはこっちに来な」

無駄に反抗して、他の少女達に怖い思いをさせるのも嫌であった。それに、目的がリノア1人であれば、他の少女は関係ない。

男はリノアを立たせると、彼女に荷台から下りるように指示した。
トラックに残された他の少女の恐怖や哀れむような視線が痛い。

自分を不安そうに見つめるラーナの視線をリノアは受け止めた。

(大丈夫・・・・・・きっとなんとかなる)

リノアだけはトラックから降ろされた。
少女達を乗せたトラックは、リノアの予想通り大きな倉庫の中に停められていた。
見渡すと、荷揚げ用のクレーンや中身のわからない木箱がある。
ただ、錆びた機械や乱雑に置かれた木箱からすると、ここは封鎖され使われなくなった倉庫なのかもしれない。

リノアは管理室とも言えるようなコンテナの中に連れてこられた。
その中に一脚だけあるパイプ椅子に座らされる。

小さな格子窓があるが、あれでは外の様子はわからない。

コンテナの外から、男たちの声が聞こえる。

(壁に耳をつければ、聞こえるかもしれない・・・・・・)

リノアはコンテナ内に誰か入ってこないかを確認し、壁に耳をつけた。

「あの娘で合ってるのか?」
「合ってるも何も『リノア』という16,17歳の娘を連れてこいっていうのが命令だからな」

(聞こえる.......)
壁に耳を当てれば男たちの会話がしっかり聞き取れた。こんな内輪の会話を人質に聞かれてしまうなんて、武装こそしているが、相手は素人ではないかとリノアは考えた。リノアが一緒に過ごしてきたスコール達SeeDはもっと徹底していた。

リノアは意識を集中させ、会話の続きを聞く。

「本当にあの娘には、ティンバーが独立できるだけの人質としての価値があるのか?」
「どうやらそうらしいぜ。あの娘をシルベウスのところに連れて行きゃいいって話よ」

(シルベウス?!スコール達が誘拐しようとしたシルベウス将軍のことよね?)

「にしても、どこにいるかわからなかったからな。あいつには世話になった」
「あいつ?」
「ああ、女たらしのレジスタンスのリーダーさ。そいつは女を集めるのだけは得意だからさ。やつに任せればこの通りさ」

やはり、あのリーダーと呼ばれる男とこの武装した男たちはグルなんだとリノアは思った。

「で、シルベウスのところに連れていく娘はいいものの、他の娘はどうするんだ?」
「さあな。俺たちの知ったことじゃない。あの男が気に入ったのをテキトウに連れて帰るんじゃねえのか?で、残りはドールかガルバディアの闇市に売るのかもしれんな。そっち方面にも顔がきくってハナシだから」
「連れてきちまった以上、そのまま返すわけにもいかないからな」

そこで男たちの会話は終わった。2人はそれぞれどこか別の場所に向かったようだ。

とにかく男達の目的はわかった。
自分を誘拐して、シルベウスのところに連れていくつもりなのだ。
(でも、ほかの子たちは関係ないじゃない!)
リノアは怒りで身体が震えた。

(とにかく、ここを出なきゃ)

ここから脱出して、スコール達や仲間のレジスタンスを呼ぶ。そして、囚われた少女達を助ける、リノアはそのように考えた。

そのとき、ガシャーン!と壁を突き破るような大きな音が聞こえた。

「侵入者だ!」
男の叫び声が聞こえた。

リノアが閉じ込められているコンテナからは外は見えない。男の叫び声や銃声、そしてトラックに閉じ込められた少女達の悲鳴が聞こえるだけだ。
外からは男のうめき声が聞こえる。侵入者の方が優勢なのかもしれない。

(スコール達が助けに来たのかも!)
リノアの胸は期待で跳ね飛んだ。閉じ込められたドアをじっと見つめる。その扉が開かれる瞬間をーーーー


重い扉が横に少し動いた。

「!」
リノアは固唾を飲んでその扉が開くのを待つ。

(スコールなの?!)


しかし、扉の向こうにいるのは、リノアが心の中で叫んだ人物ではなかった。


「ニーダ!?シュウ?!」

リノアは困惑しながらその名前を呼んだ。

ニーダがさっとリノアに駆け寄った。その間にシュウは襲ってきた男に、膝で思い切りみぞおちをくらわせた。

ニーダはリノアの縄を手際よく解いた。シュウはドアから外を伺い、周囲を警戒していた。

「君は、ティンバーのレジスタンスに狙われている」

「だから僕たちが助けに来た」

そう言われても、リノアは茫然としながら、ニーダをみていた。状況に頭が追いつかない。

「行こう、リノア」

(行くって、どこへ?!)

疑問が湧いたが、混乱のため声に出すことはできなかった。自分が行く場所なんて、たったひとつしかない。スコールがいる場所だ。そこ以外、どこにでも行くつもりはない。

ニーダは背を向け、部屋の外に出ようとした。

このまま、ニーダとシュウは安全なところへリノアを連れて行くだろう。

(でも、あの子達は..........?)

自分が知らずのうちに巻き込んでしまったラーナやあの少女達はどうなるのだろう?先ほど盗み聞きした男たちの会話が脳内で蘇る。
リノアは自分の拳をぎゅっと握りしめた。

「待って!」
リノアは動かなかった。

「?」
ニーダは後ろを振り返る。
そこには真剣な表情で見つめるリノアの姿があった。

「あの子たちをそのままにできない」

「えっ?」

予想外の言葉にニーダは驚いた。

「捕まった女の子たちを、全員ここから出すの。そうしたら、ついて行くわ」

リノアの主張に、ニーダは戸惑いながらもなんとか説得を試みた。

「......でもさ、リノア........」

いつからいるのか、シュウがその場にいた。
なかなか2人が来ないから戻ってきたのだろう。
シュウは黙ったまま、リノアを見つめている。

「わたしだって、スコール達と一緒に旅してきたんだもの。足手まといにはならないわ」

そう言って、リノアは先ほどシュウが倒した男から武器を拾い上げたボウガンを構えてみせた。彼女の使うブラスターエッジと原理は一緒のためか、その姿も様にはなっていた。

(.........まったく、この姫サマは..........)
シュウは、やれやれと苦笑混じりにため息をつき、リノアの顔をじっと見た。その眼差しを感じてか、リノアもシュウの顔をじっと見た。
リノアの表情は、どこまでも真剣で、勝気で、強情で.......
SeeDの立場としては、非常にやっかいで、この場で論破してやることも出来なくはない。でも、それはしたくなかった。
むしろ、シュウ個人としては、リノアの意見に賛成だ。

「大丈夫。(魔女の)力は使わない。約束する。彼女たちを逃したら、黙ってあなた達についていく」
リノアは、何が何でも引かぬという真剣な表情で言った。

シュウはそこに、彼女の覚悟を感じた。

「........わかった」
半ば折れるような形であったが、シュウは頷いた。
その途端、リノアの表情が明るくなる。花が咲いたように笑顔になったのだ。
それにつられるように、シュウもなぜか微笑んだ。
理由はわからない。
決して笑っていられる状況ではないのに。

でも、スコールがなぜリノアに惹かれたのか、少しわかった気がした。

「シュウ...........」
ニーダは何か言いたげだったが、言葉にすることはなかった。
今回のリーダーはシュウだ。決定権は彼女にある。

「私とニーダでレジスタンスたちをどうにかしよう。ニーダは辺りを警戒しながら建物内部を全て回って、敵を排除しろ。リノアは捕まっている子達を外に誘導するんだ。私はリノア、ニーダの両方をサポートする」

「「了解!」」

そのSeeDの敬礼に2つの声が重なった。
ニーダは「えっ?」とリノアを見ると、彼女はSeeDの敬礼をして、くすりと笑ってこちらを見ていた。
そんな2人を見て、シュウも自然と笑みが溢れた。

  *    *    *

倉庫内にいるレジスタンス達の制圧には、さほど苦労しなかった。相手は武器こそ持っているが、兵士ではない。SeeDであるニーダとシュウに敵う相手ではなかった。

(スコール達からリノアを奪うより、レジスタンス達からリノアを奪う方が簡単......か)
ニーダは複雑な気持ちでいた。仮にスコール達が相手ならただでは済まない。

(少々強引な作戦って、このことか)

カーウェイ総帥自らがスコール達をティンバーの市街地の外に誘い出し、その間にレジスタンスの男たちがリノアを含む少女達を攫う。そして、ニーダとシュウはそこからリノアを連れ出す。その作戦はカーウェイから聞いたものだ。

倉庫や隣接している建物内部を巡に回りながら、ニーダは潜んでいるレジスタンスの男たちを倒し、拘束していった。

(これだけの人数の女の子が街から消えたんだ。街は今頃大騒ぎになってるはずだ。そのうちここも見つかるだろう)

彼女達をさらったレジスタンスの男達は、後にここにやってくるであろうティンバーの自警団や少女達を探しに来る人に任せるとして、彼は早くここを出たかった。

いつ、スコール達がここがわかって、リノアを取り戻しにくるかわからない。
ここで鉢合わせにはなりたくなかった。

ふと、リノアの方を見る。
リノアは捕まっていた少女達のロープを解き、出口へと誘導していた。
少女達にとっては新たな襲撃者であるシュウとニーダよりも、一緒に囚われていたリノアの方がよっぽど信頼できるだろうし、何より安心できる相手だろう。
リノアは少女全員を外に誘導し逃がした。

「終わったわ」
リノアはシュウに声をかけた。

「よし、行こう」

リノアは頷いて約束通り黙ってシュウとニーダの後について行った。


      *    *    *


一方、スコール達はカーウェイを送り届けた後、森のフクロウのアジトに戻り、リノアがいなくなったという報告を受けたところだった。

―――寒気がした。
さっきから、自分の心臓の音がひときわ大きく聞こえる。

「おい・・・・・・スコール・・・・・・大丈夫かよ・・・・・・」
青ざめているスコールにゼルが心配そうに声をかける。

「ああ・・・・・・」
スコールは腕を組んで俯いた。

(SeeDメンバーの安全確保のため、全員でカーウェイ総帥を送った俺の判断が間違っていたのか・・・・・・)

(誰か一人でもSeeDメンバーを残しておけば、違ったかもしれない・・・・・・)

(・・・・・・過ぎたことを悔やんでも仕方ない。とにかくリノアを探すことが先決だ)

「リノアとキツネの首領の娘が向かった先をあたろう。そこから二人がどこに行ったのかを調べるんだ」

スコールの言葉に、その場にいた全員がうなずいた。

  * * *

いろいろ調べているうちにわかったことは、ティンバー市街地で活動するレジスタンスのうち、10代後半の少女が一斉に行方がわからないという事実であった。
森のキツネの首領に訊いて、リノアとラーナが買い物に寄る店を訪ねるうちに、それぞれが口にするとある場所に行き着いた。

「最近できたらしいッスけど、リノアみたいな女の子がたくさん集まる場所があるらしいッス」

スコール達はワッツに案内されるまま、ティンバーの裏通りを過ぎ、今は廃業となったパブであったと思われる建物に入った。

建物内には誰もいない。でも、明らかに人がいたと思われる証拠がある。

飲みかけのグラス。作り途中の花のコサージュ。
それに・・・・・・買い出しに行ったリノアとラーナが持っていたであろう買い物袋。
中には新鮮な野菜や缶詰が入っていた。森のキツネの首領が書き留めた買い物のメモと共に。

間違いない。リノアはここにいたのだ。

『油断するな。敵はガルバディアだけではない』

去り際にカーウェイが言った言葉をスコールは思い出した。

リノアも首領の娘ラーナも、生半可な気持ちでレジスタンスをやっているわけではない。
殊にガルバディア兵には警戒していた。
でも、もし、彼女たちを連れて行ったのがガルバディアではなかったら。
同じティンバー独立を目指す同志だとしたら・・・・・・。
彼女たちが連れ去られてもしまう可能性だってある。

(カーウェイ総帥はこの事態を知っていた・・・・・・?)

スコールがさらに思考を深めようとしたそのとき、

「おーい!ラーナが、家に戻ってきたってよ!」
建物のドアの方からゾーンの叫び声が聞こえた。

(ラーナだけ?リノアは一緒じゃないのか・・・・・・?)

スコール達は急いで森のキツネの首領の家に向かった。


  * * *


森のキツネの首領の家に着いて、スコール達は2階に案内された。
事情が事情なので、いつもいる双子の弟たちは、母親が外に遊びに行かせた。

ラーナはベッドに座って俯いていた。

彼女は「自分がリノアを誘わなければ、こんなことには・・・」と自分を責めているらしかった。
もちろん彼女を責めるつもりはない。ただ、スコールには彼女を慰めるだけの言葉を持ち合わせてなかった。

ラーナはおそるおそるスコールを見て、すぐに目を伏せた。そして、ぽつりぽつりと話し出した。

リーダーと呼ばれる男が最近作った、自分たちと同年代の少女が集まる場所。
武装した男達が脅して、その場にいた十数人の少女をトラックに乗せたこと。
トラックはティンバー郊外の工場地帯へ行き、倉庫の中に停められた。

「私たちが捕まってるところに、2人の襲撃者が来たの。リノアはその人たちと何か話してた。その後、リノアが捕まってた女の子全員を逃してくれたわ」
ラーナは溜まった涙を拭いながら言った。

「リノアが縄を解いてくれるとき、『リノアも逃げないの?』って聞いたの」

「そしたら、彼女『わたしは大丈夫』って言って笑ったの」
そこまで言って、ラーナは鼻を啜り、ハンカチで目を押さえた。

「リノアは無理矢理連れて行かれたわけじゃない。きっと、私たちを助けるために、自分からついていったんだわ」
そう言い終わると、彼女はわあっと泣き出した。

スコールは泣き出すラーナを見て困惑した。

(女子が泣いているのを見るのは、苦手なんだよな・・・・・・)

「リノア達がどこに向かったかわかるか?」

スコールの問いに、ラーナはハンカチで目をおさえたまま首を横に振った。

「・・・・・・それなら、その閉じ込められていた倉庫に案内してくれ」

ハンカチを膝の上で握り、ラーナはこくりと頷いた。