永遠の花 第12章




予想外の再会を果たした翌日。


ティンバーセントラルホテルは、優雅な朝を迎えた。

心地良いクラシックのBGMはホテルのレストランに控えめに響き、客人達は和やかに朝食と取っていた。

今日の午後に、カーウェイ氏、リノア、アーヴァイン、アレンは大陸横断鉄道に乗って、ガルバディアへ戻る予定であった。


昨日のスコールとの再会は、運命のいたずら。
今後、おそらく彼と会うことはない。
だから、昨夜のことは忘れよう。
リノアはただひたすらそう思っていた。


リノアは、一足早くホテルのレストランに到着した父親と一緒に朝食をとろうと、席に着いた。カーウェイはすでに食べ終わったのか、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。

アーヴァインは他の兵士とテーブルで食事をとっていた。

そこに、アレンの姿はない。


「………アレンさんは?」

カーウェイはコーヒーを啜っていた。


「先ほどまでここにいたのだが、ガルバディア本国から連絡が入ったらしい。今は席を外している」


「そう」とリノアは呟き、ナイフとフォークで器用にベーコンを切り取り、口に含んだ。

ベーコンを押さえるたびに、昨夜彼に触れられた左手が嫌でも目に入る。

戦士らしい武骨な手だが、それでいて指先は繊細なようで、あたたかくて........

あの手に触れられると、穏やかな気持ちになった。
その感覚を思い出した。


「.................」


カーウェイは、新聞越しに横目で娘の様子をうかがう。


「……ノア」

「リノア」

突然名を呼ばれ、リノアは「えっ?」と聞き返した。

「ベーコン、落ちてるぞ」
カーウェイは呆れたようすで言った。


「.......あっ」

………いけない!


カーウェイはそんな娘の様子を訝しげに一瞥し、再び新聞に目を落とした。


リノアは気恥ずかしくて、少し目をつぶって、意識を追憶から現実に戻し食事を続けた。



しばらくして、

「総帥、少しよろしいですか?」

突如現れたアレンが席を立とうとしたカーウェイの傍らに寄り、耳打ちする。

カーウェイはそれを険しい顔をしながら聞いていた。

「わかった」とだけ言って、彼は席を立った。
そして、リノアの方を向いて言った。

「面倒なことが起こった。お前はしばらくここに残れ」


突然の父の発言にリノアは唖然とした。

「残るって………」

この父親は、判断は早いが、説明というものを省く。
それに納得いかなくて、かつては反発していた。


訳が分からず目を丸くしている娘に、カーウェイはひとつ溜め息をついて優しく言い聞かせた。

言って素直に聞くような娘ではないことは、身をもって知っていたのだ。

「緊急事態発生したのだ。私自身も詳しいことは分からない。ガルバディア軍本部と連絡を取ってくるから、お前はここにいなさい」


それだけ言うと、彼は足早にとテーブル席から去って行った。
その後を、ガルバディアから連れて来た数人の兵士たちが付いていく。
リノアは父親の背中をただ茫然と見つめていた。

「リノアさん、大丈夫ですよ。デリングシティは危険な状態なんです。ティンバーにいる方が安全でしょう」

アレンは優しく言った。


(デリングシティ?危険な状態?)


(どういうことなの?)


疑問が次々に頭に浮かぶ。


「分かりました……」


俯いてそれだけ言った。



自分はこうゆうとき、いつでも蚊屋の外であった。
何が出来るというわけでないけれども。
自分にできることと言えば、ただ待つだけ。
その身を案じ、大切なひとが戻ってくるのを待つだけだった。

この感覚に近いものを、ガーデンにいるときからいつも味わっていた。
スコールが任務で戦地へ行ってしまうとき……
魔女である自分の処遇を決められるとき……

そんなとき、自分の無力さを痛切に感じた。

大切な人はこうしていつも危険に身を置いて、自分はその背中に守られて。


リノアは立ち尽くして、慌ただしく人々が行き交うロビーの風景を眺めていた。


父親が席を立った後、彼女は茫然と朝食を取っていたテーブルに付いていた。
目の前に置かれた紅茶は完全に冷めきっていた。



デリングシティで何があったの……?

父親の険しい表情から、事の具合はかなり深刻らしい。

アレンが「デリングシティは危険だ」と言っていた。

危険……?どういうことなの……?

ますますのリノアの疑念が強くなる。





「…………………」

黙って冷めきった紅茶のティーカップを見つめるリノアのところへやってきたのはアーヴァインであった。


「リノア!」


「アーヴァイン!………一体、何が起こったの?」

リノアは席を立って、彼の元に駆け寄った。



「………あまり詳しくは話せないんだけど……………ガルバディアでクーデターが起こったんだ」


アーヴァインは声のトーンを落として言った。


「……クーデター?」

予想以上に物騒な言葉に、リノアは眉を傾げる。


「そう、現ガルバディア政府を倒すための暴動が起こったんだ」



「そんな……」

アーヴァインの言葉にリノアは唖然とした。


「デリングシティはどうなっているの?」

デリングシティにはリノアが心配する人たちが大勢いた。

ガルバディアの実家に一人残してきた家政婦、図書館の同僚や館長と利用者たち、近所に住んでいて毎週教会で顔を合わせていた子供やお年寄りたち。

リノアの心中を察したのか、アーヴァインは彼女を落ち着かせるように少し微笑んだ。

「現場となったのは、ガルバディア政府の官庁や政府機関だけだ。だから、一般人は巻き込まれていないよ」

「そう……」

リノアは呟いた。

しかし、デリングシティでそんな大変なことが起こっているのでは、落ち着いてはいられなかった。


「わたしたちは……お父さんもアレンもアーヴァインもこれからどうするの?」


「僕とアレン、そしてリノアは、しばらく、ティンバーに残ることになった」


「この国に残るの?」

リノアは意外な言葉に不思議に思った。


「そう。僕は僕でこっちで任された任務がある。それはアレンも同じさ。………デリングシティは政府関係者にとって、かなり危険なんだ。だから、リノアもティンバーに残った方が安全だ」

「そう……。………でもお父さんは?」

先ほど彼が言った人物は、自分、アーヴァイン、アレンの3人だけであった。
アーヴァインは、ティンバーに残る人にカーウェイ氏を挙げていない。

「……カーウェイ総帥は、今からティンバー総本部へ向かった後に、デリングシティに戻るよ」

アーヴァインの表情はいつもと違って真剣であった。


「……そんな。デリングシティは政府関係者にとって危険なんでしょ?」

リノアの問いにアーヴァインは真剣な表情で頷いた。

「そうだね。でも、カーウェイ総帥は現ガルバディア政府の軍の最高責任者だ。彼は国へ戻って指揮を執る使命がある」


「…………………」





『すまない、リノア。また任務が入ったんだ………』

『………仕方ないよ。帰ってきたら、また会えるでしょ?』




使命……任務………こういったものから、自分はいつも置き去りであった。

しかし、ここで異論を唱えたところでどうにもならないことをリノアはよく理解していた。

「リノア、君はしばらくガルバディア大使館の保護の元、ティンバーに滞在することになる………。これから僕が送って行くよ」



「…………………………」


リノアは何も言わずに、彼に案内されるままロビーの玄関前に用意された車に向かって行った。


リノアとアーヴァインが乗った車はティンバーのガルバディア大使館の玄関に付けられた。

在ティンバーのガルバディア大使館は、ティンバー市街地の中心地にあり、ホテルからそう遠くはない。周りには、外務省の人間やその家族が暮らす住宅街、海外からの客人が泊まるホテルが並んでいた。

白い重厚な石造りの建物の玄関口には、ガルバディアとティンバーの2つの国旗が風に揺られていた。


二人が車を降りると、玄関の扉の前でアレンが待っていた。


「リノアさん!お待ちしてました。ガルバディア大使館にリノアさんのティンバー滞在に関して、話はもう自分が済ませました」


アレンはガルバディアの高級官僚なのだ。こういった手続きや交渉が彼の仕事の中心なのだろう。



「ありがとう、アレン」


リノア、アーヴァイン、アレンの3人は、大使館の人間に案内されるまま、ガルバディア大使館の3階へと向かった。


静かな廊下をアレンとそれに続くリノア達は歩いて行く。
廊下には、重厚でクラシカルな雰囲気を思わせる濃紅の絨毯が敷かれていた。
並ぶドアや梁などのディティールも、ガルバディア調の建築であった。


彼らは客間に案内された。
部屋の中は、絨毯が敷かれ、中央のテーブルとソファーもガルバディアから取り寄せた物であろうか。リノアにとって、どこか懐かしい印象を与えるものであった。

窓のレースカーテンから差し込む光はやさいい。
ティンバーは、ガルバディアとは対照的にのどかな時間が流れていた。

そのソファー前には一人の壮年の紳士が立っていた。
背が高く、長身の男は品の良いグレイのスーツを着て、銀縁の華奢な眼鏡を掛けていた。その奥の黒色の瞳、目尻の皺のようすから、男の知的さ柔和さが伺われた。


「お久しぶりですね」

男はリノアに向かって優しく微笑んだ。


「ロンメルおじさま!」

リノアは驚いて声を上げた。


彼は父親と同じ大学を出た校友であった。
父はガルバディア軍に入ったが、ロンメルは外務省に入ったのであった。
それから、父の仕事の関係もあってたびたびリノアとも顔を合わせていた。

ロンメルは父親と対照的に、温かくて朗らかな男であった。
妻はいるが、子供はいないようで、自分のことを幼少の頃からとても可愛がってくれた。本が好きで、賢くて、いろいろなことを知っていた。
リノアは彼を「ロンメルおじさん」と呼んで懐いていた。


「お話はアレンさんから伺っております。ティンバー滞在の間、何かあれば私に言ってくださいね」


「よろしくお願いします」

リノアは頭を下げた。

ロンメルおじさんがいる、そのことは少しだけリノアの心を軽くした。
ガルバディアを離れてティンバーに残ることは正直心細かった。
アーヴァインやアレンもいるけれども、彼らは彼らが果たすべき任務があったから、ずっとそばにいるわけにはいかない。


「大使館のゲストハウスがありますから、そこをしばらくお使いください。お荷物を、先に預けましょうか?」


「ありがとうございます。トランクが一つ車にあります」

「分かりました。ゲストハウスに運ばせておきますね」


二人が異常に親密な様子であるのに大使、アーヴァインは不思議に思っていた。

「ロンメル大使は父と同じ大学の出で、そのころからの付き合いがあるの」

彼の様子に気付いて、リノアは説明した。

「へえ、どおりで……」
アーヴァインは納得した様子で言った。

先ほどリノアは「ロンメルおじさま」と彼のことを呼んでいた。
古くから彼女の父親と付き合いがあって、見たところまともそうな人だ。
用心深いカーウェイが長年付き合う人間なのだから、おそらく信頼出来る人なのだろう。

「リノアさん、大使館の中を見て回りますか?大きくはないですが、資料室として図書館もあるんですよ」

「ええ、ぜひ」
リノアは微笑んで答えた。
本を読めば、気が滅入ることもなくなるだろう。

「ロンメル大使……僕達はここで失礼致します」

アレンが丁重に礼をした。
アーヴァインもそれに続いて礼をした。


「そうですか、外までお送りします」

「私も行きます」
リノアが後にそう言った。


「大丈夫そうだね、リノア」
アーヴァインが後部座席のドアに乗り込む前に、リノアに向かって言った。

「うん」
リノアは明るい声で返事をした。

ロンメル大使にリノアのことを任せておけば大丈夫そうだ。
昨夜、スコールに会ってしまったと言って、彼女は混乱していた。

同じティンバーにいると言っても、スコールはティンバー軍将校で、リノアは大使館の保護の元で、ただこの国に滞在しているだけだ。
これ以上、彼らに何か接点があるとは考えがたい。


(………リノア、知ってる人がいてよかっらね)


アーヴァインは車に乗り込んだ。


(………さーて、仕事仕事)


(………諜報活動、諜報活動)
アーヴァインは、カーウェイ直々のエージェントなのだ。

「………アーヴァインはこれから何処へ向かうんだ?」

少しの沈黙の後、アレンは口を開いた。



「えっ?………同じ車乗っちゃまずかったかい?!」


「いや、そうじゃないけど………僕はティンバーの外務省へ向かうよ。リノアさんのティンバー滞在のことでやらなければならないことがいくつかある」

「そうか。僕は行きたいところは...…」

(まずは、あの辺りから揺すってみるかな………)

「ティンバー軍総本部!」

アーヴァインは不適な笑みを浮かべた。



「総本部の方が近いね。じゃあ、そっちに先に寄ろう」

アレンはハンドルを切った。



 ◇    ◇    ◇





「まさか、こんな形でおじさまに会えるなんて………」

リノアとロンメルはテーブル越しに向かい合い、紅茶のカップを啜っていた。

「ガルバディア大使になられていたんですね」

リノアが尊敬の意を込めて言った。
事実ガルバディア本土の外務省は、汚職やさまざまな企みで淀んでいた。
ロンメルはそういったことには全く興味を示さない人物で、リノア自身も彼の潔白さを知っていた。


「解放した植民地の大使館など、貧乏くじを引いたようなものですよ」


ロンメルは笑いながら言った。

「私もあと2年で退職です。ここで無事勤め上げたら、妻と田舎に帰って農業でもやりますよ」


ロンメルおじさんは優しい人だから、
人がやりたがらない仕事を自ら受け入れたり、利益を他の人に譲ったりすることが多かったのだろう。

リノアは思った。

彼は実に誠実で欲の無い人間であった。出世も名誉も金も興味が無かった。それが返って、周りから変わり者だと思われていた。


『私もあと2年で退職です。ここで無事勤め上げたら、妻と田舎に帰って農業でもやりますよ』
こう言ったときの、ロンメルおじさんの笑顔に刻まれた皺が、時の経過を思い知らせた。それと同時に、昔と全く変わらないその優しい表情に、リノアは安心した。


     ◇      ◇     ◇

そのころ、ティンバー軍総本部の大会議室には荒れに荒れていた。
本部の最上階の片隅にある、大会議室の前の壁にはティンバー軍旗と国旗が掲げられ、磨かれた木製のテーブルが長方形の形を作って並べられていた。
 それぞれの椅子には、ティンバー将校の蒼々たるメンバー30人程度が興奮した様子で座っていた。

ある将校が机を叩き怒鳴った。
「なぜガルバディアのクーデターの尻拭いなんかしなければいけないんだ?!」

ティンバー大統領官邸から来た秘書官は、冷静に答えた。
「今回のガルバディアのクーデター鎮圧の提携の理由として、大統領閣下より直々に返答があります」

他の将校が続いて言う。
「他国のクーデター鎮圧など、何の利益がある?!」


「法的根拠として、ガルバディアとの協定が挙げられます」

言い返された将校は「ふん、あんな形だけのものを」と吐き捨てた。


ティンバーの大統領官邸からやってきた秘書官と、ガルバディア将校との一問一答が先ほどから続いていた。


事の発端は1時間ほど前のこと。
ティンバー軍に、大統領から「デリングシティでのクーデター鎮圧に関して、ガ軍とティンバー軍の提携」という通達が出された。そして、緊急会議が開かれる事になったのだ。

スコールは将校が集まる会議室の一番末席で、この荒れ模様を冷静に俯瞰していた。

(予想以上の反発だな………)


建前ではガルバディアとの「友好」を掲げていても、本音には植民地時代の恨みが残っている。

ここにいる将校達全員は、スコールただ1人を除いて、若かった兵士時代をガルバディアによる支配で奪われていた。
その分、反発の意も大きいのだろう。


「では、一体どこの部隊が実際、ガ軍との提携に参加するのだ?」

誰かの一言で、会議室はしんと静まり返った。

そして、ティンバー軍将校達の視線は一斉にある人物に注がれる。

その先にいるのは、スコール・レオンハート。


(やっぱり、こうなるよな………)


スコールは内心溜め息をついた。


       ◇   ◇   ◇
  

有無を言わさない会議の決議の後、スコールは若い部下を連れて大統領官邸に向かっていた。

官邸には、ガルバディア総帥のカーウェイ氏がいるそうだ。
彼にクーデター鎮圧に関して、指示を受けるのだ。

官邸の玄関前には、スコールが乗った黒塗りの高級車が止められ、官邸に勤める官僚に迎えられた。

連れてきた部下をロビーに残し、案内されるままに、スコールは応接室へ向かった。


そして、ある一つのドアの前で彼は立ち止まった。

「こちらです」

官僚はそう言うと、ドアをノックした。

返事のあと、官僚はドアノブに手を掛けて、ゆっくりと扉を開けた。



部屋の窓側には、大きなデスクと革張りの椅子がある。

部屋の中央には同じく黒の革張りソファーとテーブルがある。

ソファーにはフューリー・カーウェイが座っていた。

彼は相変わらず険しい表情で書類に目を通していた。
スコールが部屋に入って来ると一瞬顔を上げたが、またすぐにその視線を書類に戻した。

「やはり君が来たか」

苦笑した様子でスコールの顔を伺った。

カーウェイは「予想通り」といった顔をしていた。
彼にもティンバー軍の会議がどんなに醜いものであったか想像出来たのだろう。


「座りたまえ」という声の後に、スコールはカーウェイの向かいに腰を下ろした。


「年寄りだらけの中でやっていくことは、大変だろう」

「心中察するよ」と言って、スコールに持っていた書類を渡した。

「これが現在の状況に関するデータだ。後で目を通してくれ」

スコールは書類を受け取った。


カーウェイは掛けていた眼鏡を外して、テーブルの上に置いた。


「今回のクーデターはガルバディアの旧デリング派が起こしたものであるが、ティンバーの反ガルバディアのレジスタンスの一味と手を組んでいたようだ」



「だから、ガルバディア軍とティンバー軍が提携して対処することになった。この提携に至るまでの、そちらとのやりとりはその書類にある通りだ」


「了解しました」


「ティンバー軍に頼みたい事は、クーデターを起こしたデリング派と手を組んでいるティンバーのレジスタンスに関する調査だ。それと、国境付近での物資輸送の取り締まりだ」

「ガルバディアがこれをやってもいいのだが、ティンバー領土内でガ軍がうろうろされるのを好まない人間も多い。そこで、頼みたいことなのだ」


「その中に、今回の提携に関する公務書がある。目を通しておいてほしい。ガルバディアとティンバーが軍事提携をすることを示すとして、実行部隊である君がサインをしてほしい。そのサインされたものを受け取りたいものだが、私は急いでガルバディアに戻る。サインした書類は、明日にでも、《在ティンバーのガルバディア大使館》のロンメル大使に渡して欲しい。彼が文書を受け取って、ガルバディアとティンバーの軍事提携が正式に成立したことになる」

「了解しました」


「それと、クーデターに加担するレジスタンスの調査のために、ガルバディアから諜報員を1人派遣する。両国の情報の共有は彼を通して行おう。アーヴァイン・キニアスだ。君もよく知ってるだろう」


「はい」

カーウェイは、立ち上がった。

「今回の件はガルバディア、ティンバー両国を跨いだ問題だ。協力関係を築いて、なるべく穏便に事を済ませたい」

カーウェイはガルバディア、ティンバー両国の友好関係を推し進めている。だからこそ、今回のクーデターで、互いを刺激しないようにしたいのだ。

「私はそろそろ失礼する」


スコールも立ち上がり、彼を見送ろうとした。


スコールがドアを開けようとした時、


「それと最後に……」


カーウェイ氏がドアの前に立ち、付け加えて言った。


「娘をティンバーに残すことにした。先ほど言った在ティンバーのガルバディア大使館に預けた」


「……………………」

スコールは黙ってそれを聞いた。

カーウェイは彼の顔色を伺うように言った。



「………君には関係ないことだな」


「………そうですね」




何とも言えない雰囲気が二人の男の間に流れた。



そして、カーウェイは出て行った。






『君には関係のないことだな』


この一言は「娘とは関わらないようにしてくれ」というようにも聞こえ、また「いざというときは娘を頼む」というようにも聞こえた。

本当の意味するところは言った本人ではないと分からないが。


スコールは一人残された部屋で、カーウェイが立ち去った後のドアを静かに見つめていた。