スコールは、エルオーネの部屋から、自分の滞在するゲストハウスへ戻った。
しばらくして、大統領官邸から彼に連絡があった。
その後、彼は足早に大統領官邸へと向かった。
◇ ◇ ◇
スコールとエルオーネ、ラグナ、ウォードの4人は応接室で待っていた。
「みんな、お待たせ」
「シュ」という、エスタ特有の自動ドアから現れたのはキロスであった。手に何枚かの書類を持っていた。
「ガルバディアのクーデターの首謀者ジョセフ・ロバートについて、調べた結果が届いた」
一同は、緊張した面持ちでキロスの方を見る。
「彼は、間違いなくエスタにいた。それも、ラグナ君、ウォード君、私の3人がエスタの捕虜となっていたときと同時期に」
スコール、ラグナ、ウォード、エルオーネの4人の目は大きく開かれた。
キロスは4人の顔を見た後、書類に目を落とし、話を続けた。
「我々はルナティック・パンドラ研究所にいたが、ジョセフ・ロバートは、オダイン魔法研究所にいたようだ」
「・・・・・・そのときだと・・・・・・オダ研がアデルに隠れて魔女封印装置の研究をしていたときだな」
ラグナが言った。
キロスは頷いた。
「その通りだ」
「当時、反アデル派やオダイン博士を中心に魔女の力をいかに抑えるのか、封印するのか、密かに研究していた。」
「その成果が、後に宇宙に我々が飛ばした『魔女封印装置』通称『アデルセメタリー』、それと『オダインバンクル』だ」
「魔女アデルが封印された後、捕虜は全員解放された。そのあと、ジョセフ・ロバートはガルバディアに戻ったようだな」
キロスは資料から顔を上げた。
そして、その場にいた全員の表情を見た。
「…………ジョセフ・ロバートが、エスタにいたということが明らかになれば、エスタの人間とこれまでも何らかのつながりがあったと考えることができる」
スコールは、口を開いた。
ジョセフ・ロバートはエスタ製の装備をした者と一緒にリノアを捕らえようとしていた。
彼がかつてエスタに滞在し、関わりがあるとすれば、説明がつく。
「問題は『なぜガルバディアのフューリー・カーウェイの娘リノアが、魔女であることが分かったか』だ」
スコールの眉間の皺は深くなった。
「表向きでは、5年前より魔女リノアは海洋調査島で監視されているということになっている。魔女は、その力を暴走させない限り、見た目は普通の人間と変わりない。フューリー・カーウェイの娘リノアが、魔女であると分からないはずだが………」
スコールは腕を組んだまま呟いた。
「なんでリノアが魔女だって分かったんだ?」
ラグナは「うーん」と、腕を組んだ。
「ジョセフ・ロバートは、魔女のこと、普通の人より詳しかったかもしれないわ。オダイン魔法研究所で働いていたのだから………」
エルオーネが言った。
「オダイン魔法研究所…………」
スコールは呟いた。
「「「「「………………………」」」」」
「オダインバンクルだっ!」
「オダインバンクルか」
「オダインバンクルよ!」
(オダインバンクル………)
(オダインバンクル、だな)
力を暴走させない限り、見た目は普通の人間と変わらない魔女。
その魔力を暴走させないために、魔女リノアは常に手首に『オダインバンクル』をつけていた。
彼がエスタのオダイン研究所で働かされていた頃は、熱心に魔女の力を封印・抑制する装置が研究開発されていたのだ。
「まだ、これと決まったわけではない」
スコールはあくまで冷静であった。
「ジョセフ・ロバートは今は昏睡状態だ。回復次第、尋問する」
実際、ジョセフ・ロバートは死亡してしまう。スコールの思惑通りにはならず、結局のところ、推測することしかできなかったが。
◇ ◇ ◇
「それと、もうひとつ………」
キロスは重々しい表情で口を開いた。
「こちらの方が、驚くべき事実だ」
一同はキロスの方を見た。
「ティンバー大統領、ジョージ・ハワードも、同じくエスタの捕虜だった」
(………なんだって?)
スコール、エルオーネ、ラグナ、ウォードは驚いた。
キロスは話を続けた。
「ハワードもジョセフ・ロバートと同じく、エスタで捕虜となって、オダ研で働かされていたんだ」
「・・・・・・・・・どういうこと?」
エルオーネが呟いた。
「・・・・・・・・・今の段階では、この事実から何が導かれるかは分からない」
(わかったのは、クーデター首謀者のジョセフ・ロバートがエスタと関わりがあったということだ。リノアを捕らえようとした奴らがエスタの装備をしていたことも説明がつく)
スコールの眉間が深くなった。
(しかし、ティンバー大統領のハワードも、エスタの捕虜だったのか・・・・・・?)
(この一連の事件に、ハワード大統領も関わりがあるのか?)
・・・・・・・・・・・。
その部屋にいた者は、一同に口を閉ざした。
そのとき、突然自動ドアが開いた。
[newpage]
「あ!いたいた~~~!」
「間に合って、よかったぜ!」
「やっぱり、ここにいたね~」
「なんとか、合流できてよかったわ」
セルフィ、ゼル、アーヴァイン、キスティスが入ってきた。
「…………みんな、どうしたんだ?」
スコールは突然のことだったので、内心困惑していた。
「どうしたって………アーヴァインから、連絡があってたんだ、スコールがエスタに来るって」
ゼルが親指を立て、にかっと笑ってみせた。
「………きっと、あなたのことだから、何か抱え込んでるんじゃないかと思って」
キスティスは、片手を頬に当てながら言った。
「ウチが、ラグナロクでビューンとみんなを迎えに行ったんだよ~」
セルフィが飛び跳ねた。
「…………そうか」
スコールは言いながら床に目を落とした。
アーヴァインがスコールの方を見て口を開いた。
「僕は、カーウェイ総帥から指令が下りてね。スコールと一緒に、リノアをさらおうとしたエスタ人の調査に行くようにってね。それと、これ・・・・・・」
そこまで言うと、彼はスコールの目にとまるように、何かを取り出した。
「リノアがつけていたオダインバンクル。ティンバー政府に見つけられて、いろいろ調べられると厄介だろ~?だから、回収してきた」
アーヴァインは、ウインクして見せた。
「ありがとう、アーヴァイン」
「オレたち、なんでも協力するぜ!」
ゼルが拳でガッツポーズを決めた。
スコールは、ゼル、セルフィ、キスティス、アーヴァインの全員を見回し、頷いた。
「それじゃあ、まずはリノアを襲った実行部隊を探そう。反魔女派、魔女封印を唱える団体・個人のリストのを洗い出し・・・・・・」
スコールの言葉はそこで遮られる。
「破壊されたオダインバンクルはどこでおじゃるか?!」
「ハア、ハア・・・・・・博士、いきなり飛び出さないでくさいよ・・・・・・」
オダイン博士と彼の助手の姿があった。
「あ、これ~?ちゃんと持ってきたよ~」
アーヴァインは、ひらひらとオダインバンクルを見せた。
照明に反射して、きらきらとそれは光った。
「そうでおじゃる!貸してみせるのでおじゃる!」
オダインは、アーヴァインの持っていたものを、強引に奪った。
そして、モニターと一体化したゴーグルをつけ、なにやら測定を始めた。
その様子を見て、ゼルが深刻な面持ちでつぶやいた。
「オダインバンクルでは、魔女の力を制御できなかった・・・・・・ってことだよな?」
スコールは黙って頷く。
「リノアはエスタに連れて行かれ、封印されるところだった」
「しかし、魔女の力が暴走し、それも失敗したようだが」
キスティスは蒼い瞳に心配そうな表情を浮かべていた。
「その・・・・・・リノアは大丈夫なの?」
「・・・・・・・・・とりあえず、落ち着いてはいたが・・・・・・」
スコールの言葉はそこで止まった。
「・・・・・・・・・ショック、受けてるでしょうね」
彼が言わんとするところをキスティスが言った。
「ああ・・・・・・・・・」
リノアはその力がおさえられなくなることを恐れていた。
魔女として、忌み嫌われることを何よりも恐れていた。
また、再び身体を乗っ取られ、操られてしまうのではないかといつも不安に思っていたようだ。
セルフィは、しばらくの間、黙って何かを考えていたような表情を見せていたが、ここで口を開いた。
「ねえ、はかせ~。・・・・・・ずっと疑問に思ってたことなんだけど、魔女アルティミシアがあたしたちの時代に出てきたってことだから、魔女アルティミシアは遠い未来で必ず生まれてくるってことなの~?」
「いい質問でおじゃる」
オダインは、バンクルの測定を続けながら言った。
ここで、オダインの助手が一歩前に出た。
「私から、補足しましょう。オダイン博士は《例の作戦》で時間圧縮がはじまり、あなた方がアルティミシアを倒してから、その現象について、研究しておられました」
「博士の研究では、時間圧縮では、単純に未来・現在・過去を圧縮するだけでなく《異なる時間軸》も圧縮する可能性があるということを示唆しています」
「・・・・・・ん~、それってつまりどういうことだ?」
ゼルが頭を掻き、困った表情でつぶやいた。
オダインの助手は続けた。
「私たちが生きている《この時間軸》以外にも、《異なる時間軸》が存在している可能性があるということです」
「普通であれば、異なる時間軸同士が交わることはありませんが、時間圧縮という特殊な環境では、それが成り立つというわけです」
「・・・・・・俺たちが倒した魔女アルティミシアは俺たちとは《異なる時間軸》に生きていた魔女、そういう可能性もあるってことか?」
スコールはオダインの方を見た。
オダインはゴーグルを外した。
「そうでおじゃる!ただ、オダインは《時間圧縮》のような膨大なエネルギーを必要とすることは、再び起こることはないと予測するのでおじゃる」
「・・・・・・なんで~?」
助手がオダインの続きを話した。
「時間圧縮という魔法は、膨大な魔力を必要とします。それも、天文学的な数字です。現在・過去・未来さらには、あらゆる時間軸を圧縮するのですから、そのことはお分かりいただけるでしょう」
「オダインは、時間圧縮に必要な魔法エネルギーを計算したでおじゃるよ。その必要とされる魔力は魔女の力では到底及ばないでおじゃる!このようなことを成し遂げられるのは、もはや、創造主レベル・・・・・・」
(・・・・・・ん?創造主?・・・・・・・・・魔女は偉大なるハインの末裔・・・・・・・・・あらゆる時代の魔女の力を取り込み、時間圧縮を行ったのは・・・・・・魔女アルティミシアと言うよりも・・・・・・)
「はかせ~?」
しばし黙ってしまって、何かを考えているようなオダインの眼前で、セルフィはひらひらと手を振って見せた。
「あ、ああ。(何かすごく重要なことに気づきかけたでおじゃる)..........少し話がそれたでおじゃるな。倒された後の魔女アルティミシアは、なぜか過去に行って、そこで魔女イデアに力を継承したでおじゃる」
「それによって、魔女アルティミシアの力は、魔女イデアへ。そしてその力は、魔女リノアへ。それから、魔女アルティミシアへ・・・・・・。別の時間軸で、『時の円環(ループ)』とも言えるような形で閉じ込められたでおじゃる」
「つまり、私たちの時間軸には、来れないってことよね」
キスティスが口を開いた。
「オダインの考えた《あの作戦》では、エルオーネの能力で、魔女アルティミシアの力を継承したリノアを魔女アルティミシアごと、魔女アデルの過去に送ったでおじゃる。そして、リノアだけを切り離し、現在に戻したでおじゃる。魔女アデルの過去で、魔女アルティミシアは時間圧縮を始め、結果的に倒されたでおじゃる」
「魔女リノアは、魔女イデアの力を継承した魔女でおじゃる。そのイデアは、子供の頃に魔女になり、そしてしばらく時間が経った後に、アルティミシアの力を継承したでおじゃる。両方の力をリノアは引き継いでいるが、アルティミシアの力だけは時間圧縮された世界に置いてきたでおじゃる」
「じゃ、今リノアに残る魔女の力は、ママ先生が子供のとき受け継いだ魔女の力ってことだな」
ゼルが確認するように言った。
「今この世界に残る魔女の力は、元の力に比べたら、実はほんの一部ってわけだ」
アーヴァインは理解したように指をバーンと突き立てた。
「そうでおじゃる。魔力の波長を調べれば、そのへんは明らかになるでおじゃるよ」
「なるほどね~。でもさあ、強力な魔女アルティミシアの力をどっかの世界に閉じ込めて、あたしたちの世界に何か影響は出ないのかな~?」
「・・・・・・そこは研究中でおじゃる」
オダインの助手は言葉を続けた。
「博士は、こうも考えておられます。元々、魔力というのは、月に関係していると。そもそも、魔法のハインをはじめとする魔力というものは、月を起源とする可能性すらあるかもしれないと。魔力のほとんどがこの世界に存在しない今、その影響が何かしらあるのではないかと、オダイン博士は研究されているのです」
「これは、あくまで推測でしかないでおじゃるが、月の引力と地球の引力のように、中心となる強力な魔力が存在しなくなったために、魔力も月の引力に引き寄せられ、月に吸収されるのではいかと、オダインは考えたでおじゃる」
「じゃあ、いつかリノアも魔女じゃなくなる日が来るってことじゃねえか!」
ゼルがガッツポーズした。
「それは今後研究をしてみないとわからないでおじゃる。魔力が吸収されるとしても、どのくらいのスピードなのかもわからないでおじゃる。果たして、魔女リノアが生きているうちにそれが実現できるか・・・・・・」
「なあ、スコール・・・・・・この話、リノアにしてやったら、いいんじゃねえのか」
スコールが返事をしようとしたそのとき――――――
大統領官邸の応接室に、控えめなノックが響いた。
「スコール・レオンハート様、ティンバーより電気信号が届いています」
(・・・・・・?こんなときに何だ?)
官邸の職員は、スコールに1枚の紙を渡した。
「なにこれ~?」
不思議そうにセルフィが尋ねた。
「・・・・ティンバー軍の暗号になってるから、あんたが見ても分からないぞ」
スコールは涼しい顔でその、古代文字ともとれるような意味不明な記号の羅列を読み解いた。
(シ、キュ、ウ、カ、エ、レ・・・・Pres.H」
(至急帰れ、Pres.H)
(至急ティンバーに戻れ・・・・プレシデント、ハワード)
(ハワード大統領からの直々の命令だ)
「スコール?」
一番近くで覗き込んでいたセルフィはスコールの固い表情に気がついた。
そのとき、
Prrrrrr
スコールの衛星端末が鳴った。
宇宙からアデルセメタリーが取り除かれて以来、電波障害は解消された。それ意向、グローバルな通信が世界で可能となった。
未だかなり稀少で高価なものではあるが、スコールのような軍の幹部や、政府の要人、SeeDはこの衛生端末を持っていた。
(・・・・・・・・・今度はなんだ?)
スコールは眉間に皺を寄せた。
画面には「Galbadia Line」と表示されていた。
(ガルバディアからの通信?)
ピッ・・・・
スコールは応答する。
『ああ、やっとつながった。・・・・・・・・・レオンハート准将!・・・・・・・・・ガルバディア大使のロンメルです』
「ロンメル大使?どうされました?」
ロンメルの声色には焦りが伺われる。
『・・・・・・お嬢様が!カーウェイ総帥のご令嬢が、いなくなってしまったのです!」
(・・・・・・・・・なんだって?)
『今日の午後昼過ぎには復旧した列車に乗って、お嬢様はガルバディアに帰られる予定でした。しかし、ティンバーの大統領官邸より、お嬢様宛に連絡があったのです。「帰国の前に、大統領官邸に是非立ち寄ってほしい」と』
『大統領官邸からは「先日、お嬢様が襲われたことへのお見舞いと、お詫びをしたい」とのことでした。大統領直々のお招きを断ることはできませんでした。お嬢様は、ガルバディアから合流した護衛兵と共に、大統領官邸に向かいました』
『そして、行ったきり戻ってこないのです。護衛兵とも連絡も取れません。ティンバー政府に問い合わせても「わからない」の一点張りで・・・・・・・・・。大統領官邸は「カーウェイ令嬢は、ハワード大統領と懇談後、ガルバディアにお帰りになった」と言っています。しかし・・・・・・』
『・・・・・・お嬢様とその護衛兵たちは、出発時間になっても、駅に現れないのです』
『正直なところ、ティンバーもガルバディアも信じられません』
『先日にお会いした貴方様のことが思い浮かび・・・・・・・・・こうやって連絡したのです』
「・・・・・・・・・・」
ロンメル大使からの報告を聞き、スコールはしばし押し黙った。
リノアの身に何かが起きている。
「分かりました。ティンバーに戻ります」
* * *
その部屋にいた全員はスコールを見ていた。
ラグナ、キロス、ウォード、エルオーネ・・・・・
ゼル、セルフィ、アーヴァイン、キスティス・・・・・
全員が固唾を飲んで、次に発せられるスコールの言葉を待っていた。
「・・・・・・・・・・・・リノアが何者かにさらわれた」
リノアがさらわれたという事実。
それと、ティンバーからの緊急指令。
2つの出来事のタイミングが良すぎる。
(リノアを誘拐したのはティンバー政府だ)
自分に下った緊急指令………
ティンバー政府はリノアに何かしようとしている!
「それから………先ほどの電報だが、俺に緊急指令があったようだ。至急帰れと」
「緊急指令?」
ゼルが眉根を傾けた。
「ああ………タイミングから言って、リノアの誘拐と緊急指令……関係がありそうだな」
「それって何かイヤ~な予感がする~」
セルフィが険しい表情でぴょんと飛び跳ねながら言った。
(確かに嫌な予感がする………)
スコールは言葉には出さず、押しとどめた。
(これから何が起こるかを考えるより、リノアを助けなければ)
「………悪いことを口にすると、本当になるらしい。今はリノアを助け出すことが先決だ」
「………セルフィ、ラグナロクの操縦はいいか?」
「まかせて~!」
「そうこなくっちゃな!!」
ゼルがガッツポーズをした。
「目的地はティンバーだ。これからリノアを救出する!」