リノアは意識を取り戻した。
頭が痛い。
リノアは痛みに耐えながら、こめかみ辺りを手で押さえた。
ずっと気を失っていたようだ。
◇ ◇ ◇
今日は、ガルバディアに帰る日だった。
ガルバディア、ティンバー間の列車が完全復旧したということで、午後に列車に乗りデリングシティに戻る予定だった。
朝、帰る支度を整えたところに、部屋の内線が鳴った。
「おはようございます。お嬢様、支度はお済みでしょうか。急で申し訳ないのですが、ティンバー大統領府より連絡がございまして、そのことをお伝えしたいのです」
ロンメル大使に呼ばれ、話を伺う。
◇ ◇ ◇
「ティンバー大統領府より連絡がありまして・・・・・・・・・お嬢様がガルバディアにお戻りになる前に、大統領官邸に立ち寄ってほしい、と。ハワード大統領より、先日のお見舞いとお詫びを直接したいとありまして・・・・・・」
先日のお見舞いとお詫び、というのはリノアが拉致されたことだろう。
大統領直々の招待であれば、断ることも難しい。
ロンメル大使の話だと、カーウェイ総帥も承認しているとのことだった。
「わかりました。行きましょう」
リノアはロンメル大使の申し出を快く引き受けた。
◇ ◇ ◇
護衛兵と共に、リノアはティンバー大統領官邸に向かった。
そして、応接間に案内され、ハワード大統領を待っていた。
そこまでは覚えている。
最後の記憶は、かすかな薬品臭と護衛兵の叫び声だった。
「っう!!これは!・・・・・・吸ってはいけない!」
◇ ◇ ◇
ゆっくりと目を開け、辺りを見回す。
(…………ここは?)
覚えのない部屋、先ほどいたところとは違う。リノアは驚いて身を起こした。
ジャラ………
自分の手首には、重い鎖が絡まっており、それはソファの脚に括られていた。
!!!!
自分に起こっている恐ろしい事態に、リノアは顔を青くした。
そこは薄暗い部屋の中であった。
厚いカーテンが、窓の外からの光を遮っているのであった。
暗くてよく見えないが、リノアが寝かされていたソファをはじめ、テーブル、棚、その上に置かれた壷や像など、どれも質の良さそうなものに見えた。
「目が覚めたかね?」
壮年の男の低い声が聞こえた。
声のする方にリノアは顔を向ける。
部屋の窓側には、重厚な机が置いてあった。
その椅子には何者かが腰を下ろしていた。
背をこちらに向けているので、顔は見えない。
「私が誰か分かるかね?」
その人物は、椅子を回転させこちらに顔を向けた。
薄暗い部屋であったが、カーテンから差し込むわずかな光で顔が映し出された。
!!!!!
「私はティンバー大統領、ジョージ・ハワードだ」
「初めまして、というわけではないな」
「どうして…………?」
リノアは唖然とつぶやいた。
「『どうして』だと?それは、無粋な質問だよ」
ハワードは、葉巻をくわえて、立ち上がった。
「少し話をしようじゃないか、リノア・カーウェイ」
「………いや、魔女リノアよ」
「……え………?」
リノアは言葉が出なかった。
心臓が冷たくなるのを感じる。
茫然とするリノアに対し、ハワ―ドは鼻で笑った。
「ふ……魔女というのは古来より人の心を魅了してきたと聞くが、それは本当のようだな………」
「…………………」
リノアは何も言わなかった。
「あのままおとなしくティンバーへ付いて来ればよかったものを………魔女というのは、とんだ気まぐれ者だな…………」
彼はマッチで煙草に火を灯した。マッチの灯りで、ハワ―ドの顔がオレンジに映った。
その顔は、非常に冷酷な表情だった。
(ティンバーへ付いていく?)
「…………?」
この男が言っていることの意味をリノアは理解できなかった。
「………5年前、私は、ある男と契約を交わした」
そこまで言うと、大統領は口から煙を吐いた。
「契約……?」
リノアが訝しげに眉を傾げる様子に、大統領は「しらじらしい」と思わせるような表情を浮かべた。
「君もよく知っている男だよ………」
ハワ―ド大統領はフーッと煙草の煙を吐いて言った。
「スコール・レオンハート………。バラム・ガーデンのSeeDだった男だ」
リノアは彼の口から出された人物の名に息を飲んだ。
「5年前、彼が卒業を控えた頃だ。世界中の軍隊が彼の実力を買ったよ。そしてどの国も彼を欲しがっていた」
確かに卒業を控えた頃のスコールの元には、毎日のように各国各軍から、入隊要請のオファーが入っていた。
「私もその一人。腐敗したティンバー軍を蘇らせるためには、彼が必要だった」
大統領は立ち上がって、窓の方に目線を移した。
そして、カーテンを開けた。
しばらく暗がりにいたリノアにとって、この太陽の光は眩しく感じた。
空は限りなく青く、街はいつものどおり平穏であった。
「淀んだ沼にとって、彼は新しい風だ。そう思ったのだ」
「私は、直接レオンハート准将と話そうと思った。彼をこの国に招き入れよう、そう考えて…………」
「………それがはじまりだったのかもしれないな」
ふっと大統領は自嘲ともとれる笑みを少し浮かべた。
「5年前、バラムのホテルで私達は話した。今日のような日とは違う、打ち付けるような激しい雨が降っていたよ。私は、彼を受け入れるべく最高の待遇を用意しようと言った」
そこで、大統領の眉間にぐっと皺が寄せられた。
「………彼はそんなものに興味を示さなかった」
大統領は再びリノアの方を振り返った。
「………しかし、『ある条件』を受け入れたら、ティンバーへ行く………こう言ったんだ」
リノアの瞳を射抜いていた目をうっすらと細めた。
「………『ある条件』………わかるかね?」
リノアは固唾を飲んで待った。
「ティンバーが魔女を受け入れるという条件だ」
「!」
ティンバーが魔女を受け入れる?
リノアはその言葉を理解しようと、もう一度心の中で反芻した。
「その言葉を聞いたときには、『何をバカなことを』と思ったよ」
ハワ―ドは葉巻をくわえたまま苦笑した。
5年前、魔女という存在は忌み嫌われるものであった。
リノアは『魔女会議』でバラム追放を告げられたのだった。
大統領は後ろで腕を組み、ゆっくりと歩き出した。
「でも、彼は言うんだ。魔女という存在は、強力なカードになる、とね」
「確かに、彼の言うことには一理ある。魔女を受け入れた国となれば、他の国の見る目も変わる」
「それに、魔女というジョーカーと、彼というエースもついてくるとなれば……世界を跨ぐカードゲームも面白くなるだろう?」
大統領はリノアの前で立ち止まった。
「………私はね、レオンハート准将は本当に優れた軍人だと思うよ。いや策士だ。」
「これで、各国が魔女のなすりつけあいを始めたとしても何の得にもならない。第二次魔女対戦、その後の月の涙等で消耗した国力を更に減らすだけである、と。ここで再び魔女を巡る戦争が始まったものならば、共倒れするだけであると」
「それならば、ティンバーが魔女を受け入れたらいい。植民地にはされていたものの、第二次魔女大戦での戦乱の傷跡も少ない国である。ここで魔女を受け入れたら、国際的にもティンバーの地位は上がる」
「そう言って、彼はティンバーに魔女の居場所を用意しろと言ったんだ」
そこで、彼の拳はぎゅっと握られた。
「しかし、魔女リノアはティンバーへは来なかった。彼の意向を全く無視した……!」
「……そして、姿を消した」
「…………………………」
リノアは、スコールがそのような意図を持ってティンバーへ行ったことを知らなかった。
このような契約を大統領と交わしていたことも知らなかった。
「それから、魔女リノアが海洋調査人工島でガルバディアとエスタ両国により監視されている、という報告があがった」
「私もしばらくそれを信じていた。魔女がティンバーにいないことを特にレオンハート准将に追及しなかった」
「正直なところ、スコール・レオンハートさえ我が軍に来てくれればそれでよかったからだ。彼はよく働いてくれたからな」
「魔女リノアが人工島での監視が解かれたときのために、居場所となる選択肢を残さなければならない。そのために自分はティンバーへ残る、彼はそう言った」
「しかし、実際はどうだ?」
「しばらく経ち、私は魔女リノアの本当の居場所を知ることになる」
「魔女が身を隠していたのはガルバディア!それも、あのフューリー・カーウェイのところだ………!」
彼はもう一本吸おうと煙草の箱を手にしていたのだが、ぐしゃりと強く握ってその箱は醜く歪んだ。
「…………それは、ショッキングな事実だったよ……魔女リノア」
「私はそこで、ある一つの結論に至った……」
ハワ―ド大統領の顔は、怒りで歪められた。
「魔女リノアは、再びガルバディアと手を組んだ………」
「!」
ちがう!とリノアは心の中で叫んだ。声に出したところで、この目の前の男の考えが変わると到底思えなかった。
「その情報を私に教えたのは、ジョセフ・ロバート………」
ここで出てきた名前は、アレンの父親の名前であった。
「魔女がガルバディアと手を組もうとしている。それをなんとしても阻止せねば、そう言ってね、ジョセフ・ロバートは私に相談を持ちかけて来たのだ」
「カーウェイの一人娘になりすまし、ガルバディア統帥のところに潜んでいる……とね」
「カーウェイの娘であったリノア・カーウェイは、本当ならばドールに留学している。その娘が急にガルバディアに戻って来た。これはおかしい。ジョセフ・ロバートはその時点で何か勘づいていたようだ。今から5年ほど前の話だ………」
確かに、ガルバディアの家を飛び出しから、体裁が悪くなるということで、リノアはドールに留学に行ったとされていたのだが・・・
「それから、彼は自分の倅を使ってカーウェイの娘を名乗る娘の身辺を調べていた」
「!!!!」
(……アレンのこと?!)
ジョセフ・ロバートの息子は間違いなくアレン・ロバートであった。
ジョセフ・ロバートはガルバディアの大物政治家であり、アレンはその息子でありガルバディアの高級官僚であった。
「まあ、彼は功を焦ったようだがな.......。意見の食い違いもあって.........彼にはこの舞台から降りてもらまったがね..........」
ジョセフ・ロバートは、病院に運ばれたはずだ。
(彼に......何をしたの?)
不吉な予感が頭をよぎる。
ハワード大統領は、リノアの表情が険しくなるのを気味よく見ていた。
「その手首に填めている腕輪は、オダイン・バンクル……そうだろう?見た目は確かに人間と何ら変わりない。しかし、その腕輪が魔女の力を封じるものであることは確認できている。この5年間肌身離さず付けていたそうじゃないか」
「魔女リノアはドールへ留学していたカーウェイの本当の娘と入れ違いになってガルバディアに現れた………確かに彼には一人娘がいた。リノア・カーウェイ。皮肉にも名前が同じとはな……………本当の娘は……何処へいったのか……」
「それから、ずっとタイミングを待っていたよ………」
「魔女リノアがガルバディアにいる限り、迂闊に手は出せなかった。なぜなら魔女リノアはフューリー・カーウェイの娘として身を隠していたから………」
「カーウェイは要人深い男だから、こちらが不用意に動けば、すぐに押さえつけられてしまう」
「だから、あの日が来るのを待った。ティンバー独立記念日式典………。この日に、カーウェイ総帥と、その娘に身を扮した魔女リノアはティンバーへやって来る………」
「娘であるリノアへの招待をカーウェイ氏は始め断った。それで私は確信したよ。カーウェイ氏の娘が魔女であることをね。それでも理由をつけてしつこく、あなたを招待しようと考えた。現ガルバディアは、国際的にも立場が弱くなっている。下手に断って、事を荒立てたくないと彼は考えるだろうと思った。結果、こちらの思惑通り、あなたはこの国へやって来た」
「あなたとフューリー・カーウェイがティンバーへ滞在する間に、ジョセフ・ロバートが中心となって、デリングシティでクーデターを起こす。フューリーは軍の最高責任者であるから、当然指揮を執るためにガルバディアに戻るだろう」
「デリングシティが危険な状態となれば、カーウェイの娘は、危険なガルバディアに戻らない。いや、戻らない方がいいとあえて進言したんだよ。『カーウェイご令嬢は、ティンバーが責任をもってお守りします』と言ってね。カーウェイも、娘を危険な祖国に帰らせるのは不審に思われると考えたのだろう。あなたをこの国に留まらせた」
「ここからが、話の核心だ。私はガルバディアが魔女と再び手を組むことを恐れていた。それならば、このままティンバーに魔女をずっと留まらせた方がいい。そう考えていた。ティンバーで魔女によからぬ動きがあったら、スコール・レオンハートに魔女討伐を命じればいいのだ」
「!!!」
大統領の瞳は怪しく光っていた。
この男は、はじめから、スコールに自分を倒させるつもりだったのではないか?
そんな疑念が頭に浮かんだ。
「私はこれでも一通りの教養は学んだつもりだ。もちろん、魔女についての歴史も.......」
「魔女には2つの生き方がある。ひとつは、その存在を伏せ、歴史にその名を残すことなく過ごす生き方。そして、もうひとつは人間の歴史に現れ、その名を轟かせ、人々に恐怖を振り撒く生き方………。魔女リノア、貴女はカーウェイと手を組もうとした。それだけで重罪だよ。一体、あの男と、世界を再び恐怖に陥れる、どんなシナリオを描いていたんだ?……私に教えてくれないか?」
(………そんな……)
出てくる言葉がなかった。
自分がカーウェイのいる家に居ることがばれてしまった。
それだけで、確かに重罪だ。
何を言ったところで、自分に耳を傾けてくれる者はいないだろう。
魔女がガルバディアの権力者と手を組み、再び世界を恐怖へと陥れようとしている。そう思われて当然のことであった。
「…………いずれここにスコール・レオンハートがやってくるだろう。それが最期だ、魔女リノア。私は彼に魔女を倒すよう、命令を下す」
「カーウェイには、大切な娘はデリングシティに戻る途中『不慮の事故』で亡くなったとでも伝えておこう。多少、ガルバディアと揉めると思うが・・・・・・賠償やら何やらで解決できるだろう。『普通の娘』ならば、な。いずれにしろ、カーウェイは、その死んだ娘が魔女であることなど公言出来るはずもあるまい。世間に魔女と手を組もうとしていたことが世界中にばれてしまからな………」
(………なんてことを・・・・・・・・・)
リノアは自然と、拳に力が入るのを感じた。
「残念ながら、大統領……。彼は、わたしを倒すことは出来ません……」
これは、リノアが力を振り絞って上げた言葉だった。
「……どういうことだ?」
大統領は不審に思ったようすで眉を傾げた。
「……………………」
リノアは彼の訝しげな眼差しを黙って受け止めた。
(………わたしがスコールに倒されるのは『今』じゃない………)
(………わたしが彼に倒される時は………)
この世の終わりとも思える世界の果て。
過去、現在、未来、全てが圧縮されつつある世界。
「残念だけれど、あなたは見ることは出来ないでしょう。わたしが彼に倒されるところを………」
「何を言っている?」
大統領が苛立った様子で声を上げたそのとき、
ドアが壊されるように開いた。
「スコール・レオンハート!」
大統領は驚いた様子で、扉を開けた人物の名を呼んだ。
「エスタからもう戻って来たのか?!早すぎはしないか?」
大統領は驚いて目を見開いていた。
確かに、エスタ・ティンバー間をつなぐ大陸横断鉄道であれば、一日半はかかるだろう。
(………ラグナロクで帰って来たからな)
スコールは蹴り開けたドアの前に立っていた。
彼の後ろに倒れたティンバーの護衛兵が床に横たわっているのがら見える。
彼は、大統領と魔女を前にしても、その姿勢に一寸の揺らぎも見られない。
彼の腰には、ガンブレードと呼ばれる長剣が下げられていた。
それを見て、大統領は安堵した。
魔女を倒させるために、彼をここに呼び出したのだから。
「・・・・・・さあ、レオンハート准将。この悪しき魔女を倒すんだ」
ハワード大統領は、言った。額から汗が一筋流れた。
スコールは動かなかった。
そして、ハワード大統領に目を向ける。
後退りしたくなるような、冷たく、鋭い眼差しだった。
「………閣下………自分には交わした契約が2つあります」
「ひとつは、ティンバーとの契約。これは5年前、閣下と交わしたものです」
「魔女リノアに安全な場所を提供するかわりに、自分がティンバー軍で使命を果たす。魔女リノアの身の安全が保障される限り、この契約は守るつもりでした」
「そして、もうひとつは………魔女と騎士の契約です」
「魔女と騎士の契約………だと?」
魔女と騎士……それはおそらく誰にとっても不吉な言葉であった。
8年前、魔女とその騎士を名乗る男が思い浮かぶからだ。
デリング政権時代のガルバディア、悪夢の凱旋パレード。
大統領は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
「この契約は…………」
一体いつ結んだものなのだろう?
森のフクロウとの契約したときか?
レジスタンスの一員だった彼女から命令されたときか?
自分のそばを離れるなと言ったときか?
彼女が魔女になったときか?
世界中敵に回しても、リノアを守ると誓ったからときか?
正式なものではないし、確かなものでもない。
けれども、いつからか、この契約は彼にとって、命そのものになっていた。
「閣下はいろいろと思い違いをされておられる」
「思い違い?何のことだ?」
(いろいろ、だ………)
そこにいるのは、フューリー・カーウェイの娘でもあり、魔女リノアでもある。
ドールに留学へ行った本当の娘と入れ違いになどなっていない。
ガルバディアと魔女が手を組むだと?
(ばかばかしい……)
リノアは、世界中から追いやられて、最終的には、世界でたった一人の肉親の元にひっそりと身を隠すしかなかったのだ。
人目をごまかして、カーウェイ家の娘として暮らすことは、彼女としては心が痛むところもあったかもしれない。
自分に対し包み隠さず親しみを寄せてくれる友人や周りの人間に、本当の自分を見せることが出来ないのはきっと苦しかったにちがいない。
「黙って何を考えているのだ?」
ハワ―ドの不機嫌な声が部屋に響いた。
「…………………………」
「教えましょう。閣下の最大の誤算は……俺が既に魔女リノアに魅了されているということです」
その言葉にハワ―ドは顔色を変えた。
「ば、馬鹿な……!ティンバーを裏切ると言うのか?!」
スコール・レオンハートが魔女に魅了されているだと?!
それは、つまり自分が下した命令は聞き入れられないということなのか?!
「裏切る?………それはお互い様だろう?」
ここで、スコールの口調が急に変わった。
「あんたとは確かに5年前契約をした。魔女リノアに居場所を用意するかわりに、俺がティンバー軍に入る……そんな契約だ」
「しかし、あんたは裏切った。魔女リノアに居場所を用意するどころか、俺に倒させようとした」
スコールの口調は冷たかった。
青い凍てつく眼差しは、大統領に向けられた。
「この瞬間を持って、あの契約はナシだ」
「俺に残されたのは、もう一つの契約……『魔女と騎士の契約』のみ………」
こともあろうに、その剣先は、ハワード大統領自身へと向けられた。
その瞬間、ハワードの顔色が変わる。
「何わけのわからんことを言っているんだ!・・・・・・自分がやっていることがわかっているのか!!?」
ハワ―ドは顔を赤くし、興奮した様子で叫んだ。
ティンバーと魔女をめぐる契約を交わしたのも、魔女の居場所を作って暴走させないようにするためなんかじゃない。
英雄を気取って、世界を守ろうとしたわけではない。
ただ………
ただ、リノアにーーーー
彼女がそばに居てほしかったから..........
(…………たとえ世界を敵に回しても……………そう、俺は魔女の騎士………)
彼は、ガンブレードの柄を強く握った。
その瞳には決心の炎が宿っていた。